目指すは知識集約型製造業　多様な人材が新事業を創出

※上記については、表彰時あるいは情報誌等記載時のデータです。

知識集約型製造業を目指す同社では、8年前から子どもの習い事費用を補助する育児教育手当などユニークな施策を次々に取り入れています。その結果、多彩な業界から多様な人材が集うようになり、ものづくりと融合した新事業が続々と生まれています。

社員一人一人が経営状況を知る

　金属加工を手掛ける同社は創業以来、曲げ加工技術に強みを持ち、エスカレーターの骨組みから食品製造機械まで取扱品のラインアップを増やしています。
　ただ、中小製造業はきつい、地味といったイメージから、若い人の採用には苦労しているのが現状です。事業戦略部長の藤井祥平さんは「ひとくくりに労働集約型と言われるのが悔しく、知識集約型製造業への脱皮を合言葉にさまざまなことに取り組んできました」と思いを語ります。
　社員のモチベーションを上げるためにまず取り組んだのが経営の見える化です。2008年のリーマン・ショック後は仕事が激減したものの人員は減らしませんでした。苦しい経営状況を率直に伝えることで、一人一人の社員が自分にできることはないかと考えるようになったそうです。一方で、利益が計上できた時には通常の賞与に加え、役職員一律の額の決算賞与を支給しています。また、黒字月の翌月には、うな重など社員が好きな弁当をリクエストできるようにしています。

子どもの習い事や学び直しも支援

　2014年からは、塾やスポーツ、音楽など内容を問わず子どもの習い事にかかる費用の半額を子ども1人当たり月額1万円を上限に会社が負担する「育児教育手当」の支給を開始。「負担の大きい教育費を補助することで、社員の子どもの夢を育て、将来の可能性を広げたい」と、藤井部長は笑顔で狙いを語ります。現在、対象の子ども16人中13人が活用しており、手当の支給を始めた当初、9,600円だった1人当たりの平均学校外教育費は現在2万3,000円にまで増えています。
　このほか、奨学金の返済を月1万円、10年にわたって支援する「奨学金返済支援」、学び直しの学費を全額負担する「リカレント教育支援」も設けており、後者を活用して東京大学の都市工学系大学院に通う社員もいます。
　こうした取組の結果、新卒、中途採用を問わず入社したいという希望者が増えています。「面白そうな会社だと言ってもらえるのが一番うれしい。デザイナーやシステムエンジニア、法務専門家など多彩な人材が集まってきて、おのずと多様性が生まれています」

映像制作や海洋水産分野にも進出

　ユニークな職歴を持つ人材が集まってきた結果、そのキャリアを生かした新事業が次々に誕生しました。例えば、2014年に新設した映像事業部。大型の4Kディスプレイ用架台の製造から始まり、現在では映画監督経験のある中途採用社員を部長に据えて、企業のPR映像やアーティストのミュージックビデオをはじめ、テレビ番組も制作しています。
　さらに、2021年には海洋水産技術研究所を新設しました。海に関わる大型構造物などを製造するうち、水族館とのネットワークが生まれて海洋関係の仕事が増え、水族館の元学芸員を採用できたことから立ち上げました。22年9月には第1弾の事業として、神戸市の商業施設マリンピア神戸にある「さかなの学校」内に、市場に流通しにくい未利用魚を活用した釣り堀をオープン。魚を釣って、さばいて、食べるまでの教育を担う施設です。コンテナを活用した水槽やろ過槽、配管などは同社の金属加工部門が手掛けました。
　こうした新事業は「定年延長化に伴い、ものづくりの現場で体力を伴う仕事に携われなくなった社員の受け皿としても活用していきたい」と藤井部長。知識集約型製造業を目指してきた結果、集まって来た人たちの知識や技術と、ベースにあるものづくりを融合させた新事業がユニークさを生み出し、それがまた新たな人を呼ぶという好循環をつくり出しています。